民間企業や一般的な公務員の定年は、60歳から65歳の間が一般的です。しかし、自衛官の定年年齢はそれよりも低く、60歳を下回っています。
さらに、自衛官全体で定年年齢が統一されていません。何歳で定年を迎えるかは、階級によって異なるのも自衛官ならではの制度となっています。
今回は、自衛官の定年や定年延長の概要、再就職、定年退職金制度などについて解説します。この記事を参考にすることで、自衛官の定年に関する悩みを多くを解決できるでしょう。

自衛官の定年について理解することは、自衛官としてのキャリアを考える上でも非常に重要です!
自衛官の定年は何歳?


自衛官の定年年齢は、階級によって異なるため全員が同じ歳で定年を迎えるということはありません。自衛官における階級とそれぞれの定年年齢については、以下の表を参考にしてください。
区分 | 陸上自衛隊 | 海上自衛隊 | 航空自衛隊 | 定年年齢 |
---|---|---|---|---|
将官 | 陸将 | 海将 | 空将 | 60歳 |
陸将補 | 海将補 | 空将補 | ||
佐官 | 1等陸佐 | 1等海佐 | 1等空佐 | 58歳 |
2等陸佐 | 2等海佐 | 2等空佐 | 57歳 | |
3等陸佐 | 3等海佐 | 3等空佐 | ||
尉官 | 1等陸尉 | 1等海尉 | 1等空尉 | 56歳 |
2等陸尉 | 2等海尉 | 2等空尉 | ||
3等陸尉 | 3等海尉 | 3等空尉 | ||
准・曹 | 准陸尉 | 准海尉 | 准空尉 | |
陸曹長 | 海曹長 | 空曹長 | ||
1等陸曹 | 1等海曹 | 1等空曹 | ||
2等陸曹 | 2等海曹 | 2等空曹 | 55歳 | |
3等陸曹 | 3等海曹 | 3等空曹 | ||
士 | 陸士長 | 海士長 | 空士長 | — |
1等陸士 | 1等海士 | 1等空士 | ||
2等陸士 | 2等海士 | 2等空士 |
参考:自衛官の階級と定年年齢
参考:参 考 資 料
以上のように、階級が上がるにつれて定年年齢も高くなっているのが特徴です。表には記載していませんが、各幕僚長の定年年齢は62歳となっています
また「士」の階級が空欄になっているのは、任期制自衛官のため定年まで働くことなく任期を満了したら退職となるからです。任期制自衛官が継続して勤務し続ける場合、2年ごとに任期が更新されることも理解しておきましょう。



以上の表から自衛官の多くは、50代以降もしくは20代で退職する方が多くなります!
自衛官の定年延長について


自衛官の定年年齢は、令和5年と令和6年に延長されています。令和5年には、1尉から1曹の定年年齢が1年引き上げられ、令和6年には1佐から3佐、2曹及び3曹の定年年齢が1年引き上げられました。
自衛官の定年年齢の変化に関しては、以下の表を参考にしてください。
令和5年9月以前 | 令和5年10月~令和6年9月 | 令和6年10月以降(現行) | |
---|---|---|---|
1佐 | 57歳 | 57歳 | 58歳 |
2佐 | 56歳 | 56歳 | 57歳 |
3佐 | 56歳 | 56歳 | 57歳 |
1尉 | 55歳 | 56歳 | 56歳 |
2尉 | 55歳 | 56歳 | 56歳 |
3尉 | 55歳 | 56歳 | 56歳 |
准尉 | 55歳 | 56歳 | 56歳 |
曹長 | 55歳 | 56歳 | 56歳 |
1曹 | 55歳 | 56歳 | 56歳 |
2曹 | 54歳 | 54歳 | 55歳 |
3曹 | 54歳 | 54歳 | 55歳 |
2年間の時間をかけて、それぞれの階級で1歳ずつ定年年齢が延長されています。自衛官の定年延長は、知識や技術、経験を備えた自衛官を有効活用することで、人的基盤を強化するのが目的です。
自衛官として長く働きたいと考えている方は、1つでも階級を上げることで少しでも多くの期間国のために働けるでしょう。



今後も定年年齢が延長されるかどうかは現時点ではわかりません!
自衛官の定年を延長するメリット


自衛官の定年を延長するメリットは、以下の3つです。
- 人員不足が緩和される
- 専門知識や技術継承が可能になる
- 生涯賃金が増加する
自衛官の定年を延長することで、組織だけでなく自衛官自身にも様々なメリットがあります。それぞれのメリットの詳細を理解することで、自衛官の定年延長における意図も理解できるでしょう。



定年が延長された理由を理解しておくことが大切です!
人員不足が緩和される
自衛官の定年を延長する1つ目のメリットは、人員不足が緩和されることです。自衛官は、2024年末時点で2万人の人員不足となっており、充足率も90.4%にとどまっています。
参考:防衛省・自衛隊の人員構成
これらの人員不足は、新規採用だけで対応できるものではありません。定年延長を行い、既存の自衛官により長く働いてもらうことで、即戦力を維持することに繋がっています。
また、新規採用者の教育や訓練においても既存自衛官の定年延長は有効です。若手の定着率を高め、戦力化のスピードを上げるためにも、教育指導に長けた人材が長く組織に残ることは大きなメリットです。
専門知識や技術継承が可能になる
自衛官の定年を延長する2つ目のメリットは、専門知識や技術継承が可能になることです。一人前の自衛官になるには、知識や体力だけでなく長年の経験も必要になります。
特に、以下のような内容に関しては、既存自衛官から新人自衛官に継承していかなければいけません。
- 複雑化する装備の操作や整備方法
- 戦術・部隊運用における現場判断力
- 災害派遣での即応力と現場調整能力
- 後輩隊員の教育・指導に必要なノウハウ
新人自衛官が、上記のような業務に対応できるようになるには時間がかかります。しかし、ベテラン自衛官が早い段階で定年を迎えてしまうと、培ってきた知識や経験が十分に引き継がれる前に途絶えるリスクがあります。
ただ、定年延長によってベテラン自衛官の在籍期間が伸びることで、現場での指導や教育担当としての役割を継続できるため、組織内での専門知識や技術継承しやすくなるのがメリットです。
生涯賃金が増加する
自衛官の定年を延長する3つ目のメリットは、生涯賃金が増加することです。これらは組織ではなく自衛官に関するメリットであり、定年延長されることで数年間分の賃金が上昇します。階級にもよりますが、従来よりも数百万円多い賃金となるでしょう。
また、退職金は最終的な在職年数や役職に応じて計算されるため、1〜3年の延長でも支給額に大きく影響します。さらに、共済年金の加入期間が長くなることで将来の年金受給額も上乗せされる可能性が高いです。
以上のように、自衛官の定年延長は組織にメリットがあるだけでなく、働く自衛官自身にも様々な面でメリットがあると言えるでしょう。
自衛官の定年を延長するデメリット


自衛官の定年延長には、デメリットもあります。自衛官の定年を延長するデメリットは、以下の2つです。
- 若年層の採用・昇進機会減少の恐れがある
- 自衛隊が高齢化する可能性がある
自衛官の定年が延長されるということは、ベテラン自衛官が組織に在籍する期間が長くなるということです。結果的に、若手自衛官や組織全体のデメリットに繋がる可能性もあります。定年延長によって、組織や自衛官自身にどんなデメリットがあるのかも理解しておきましょう。



これから自衛官を目指す方は、定年延長によるデメリットも理解しておくことが大切です!
若年層の採用・昇進機会減少の恐れがある
自衛官の定年を延長する1つ目のデメリットは、若年層の採用・昇進機会減少の恐れがあることです。定年延長によって上位のポストにベテラン自衛官が長く留まると、下位の階級にいる若手の昇進スピードが鈍化する恐れがあります。これにより、若手自衛官のモチベーションの低下や離職率の増加に繋がることも考えられます。
また、これらの状況が進むと、これから自衛官を目指す方の減少にも繋がりかねません。若手の確保が困難になれば、将来的な人材構造のバランスが崩れ、部隊の活力や柔軟性が低下することも懸念されるでしょう。
自衛隊が高齢化する可能性がある
自衛官の定年を延長する2つ目のデメリットは、自衛隊が高齢化する可能性があることです。
自衛官の職務は、日々の訓練や災害派遣、有事の際の即応対応など高度な身体的能力を要求される業務が多く含まれます。そのため、定年延長によって高年齢層の自衛官が増えることで、自衛官の機動力や能力に問題が生じる恐れがあります。
また、自衛隊組織の高齢官によって、若手自衛官の柔軟な発想が阻害される恐れもあります。従来のやり方や常識に囚われすぎて、変化に対する適応力や新たな技術への対応も遅れる可能性があることも理解しておきましょう。
自衛官の定年後に再就職は可能?


自衛官が定年後に、民間企業に再就職することは可能です。自衛官は、定年退職して仕事を辞めるわけではありません。多くの自衛官が定年退職後に、再就職の道を選んでいます。
自衛官の定年後に再就職を検討している方は、以下の2つを事前に理解しておくことが大切です。
- 定年時点で保有している資格一覧
- 定年後の業界別再就職先
これらを理解しておくことで、自分が定年を迎えた際にどんな能力を活かすことができ、どんな再就職先があるのかを考えやすくなります。



自衛官としての人生だけでなく、定年後にどんなキャリアを歩みたいのかも考えておくことが大切です!
定年時点で保有している資格一覧
自衛官として働く中で、多くの自衛官が様々な資格を取得します。定年時点で保有している資格の一覧は、以下の通りです。
- 事業用操縦士(固・回)
- 航空管制官
- 海技士(航海)
- 海技士(機関)
- 小型船舶操縦士
- 無線通信士
- 無線技術士
- 特殊無線技士
- 自動車運転者
- 自動車整備士
- 電気主任技術者
- 電気工事士
- ボイラー技士
- 土地家屋調査士
- 衛生管理者
- 介護職員初任者研修
- 車両系建設機械運転技能者
- フォークリフト運転者
- クレーン運転士
- ガス溶接技能者
- 玉掛技能者
- 土木施工管理技士
- 建設機械整備
- 火薬類保安責任者
- 高圧ガス製造保安責任者
- 危険物取扱者
- 冷凍保安責任者
- 旅行業務取扱主任者
- 宅地建物取引主任者
- 高等学校・中学校教諭
- 保育士
- ビル管理技術者
- マンション管理士
- 防火管理者
- 消防設備士
- 中小企業診断士
- 行政書士
- 社会保険労務士
- 情報処理技術者
- 簿記
- 実用英語
- 調理師
- ボイラー技士
- ボイラー整備士
- 小型ボイラー整備士
- 防災士(民)
引用:人事・採用ご担当者様へ
もちろん、全員が上記の資格を保有しているわけではありません。しかし、上記のうち何かしらの資格を取得している可能性が高く、これらの資格は民間企業でも活躍できる資格となります。
例えば、簿記を保有していれば民間企業でも会計業務で役立ちますし、宅地建物取引主任者は不動産業界で様々な面で役立ちます。
自衛官として働く中で必要な資格だから取得するのもおすすめですが、再就職のことも考えて資格を取得しておくことで、定年後の再就職先も見つけやすくなるためおすすめです。
定年後の業界別再就職先
定年後の再就職先を考える際には、過去に自衛官を定年退職した方がどんな業界に再就職しているのかを知ることが大切です。自衛官の定年後の業界別再就職先としては、以下のグラフを参考にしてください。


定年退職者の約半分は、サービス業へ再就職していることがわかります。他にも金融や不動産、建設業など前述した資格を活かせる業界にも再就職しているのが特徴です。
また、自衛官の定年後に再就職できるように、一般財団法人の自衛隊援護協会によって以下の流れでサポートを受けられます。


「定年後は自分で再就職先を探さなければいけない」と不安に感じている方もいるでしょう。しかし、様々な機関が協力して再就職先を斡旋してくれるため、過度に心配する必要はありません。
自衛官の定年に関するよくある質問


自衛官の定年に関するよくある質問を以下にまとめたので、気になる方は参考にしてください。
- 自衛官として定年を迎えた後はどんなキャリアを歩むのが一般的?
-
定年を迎え自衛官を退職した後は、民間企業へ再就職するのが一般的です。自衛隊には様々な業務があり、資格を取得することも多いため、再就職先でも自衛官としての経験を活かしやすいです。
- 自衛官の定年後は悲惨って本当?
-
自衛官の定年後は、悲惨というのは大きな間違いです。民間企業への再就職する方も多く、第二の人生として自衛官の経験を活かし、やりがいを持って働いている方も多いです。自衛官を定年退職しても、新たなやりがいを見つけられるでしょう。
- 20代の退職でも退職金は受け取れる?
-
20代の退職でも、退職金を受け取ることは可能です。20代の退職は自衛官候補生のように約2〜3年ごとに更新が行われる「任期制自衛官」がほとんどです。任期を満了した場合、2年間の勤務で約73万円、 3年間の勤務で約118万円、2任期目で約177〜181万円が支給されます
自衛官の定年を踏まえてこれからのキャリアを考えよう


自衛官の定年は、民間企業や一般的な公務員と比較しても早いです。そのため、一般的な感覚でキャリアを考えていると、キャリア形成やその後の人生で希望通りにならないかもしれません。
これから自衛官を目指す方や現在自衛官として働いている方は、自衛官の定年を理解した上でキャリアを考えることが大切です。同時に、自衛官を定年退職した後にどのようなキャリアを歩みたいのかも考えておくことで、人生を豊かにできるでしょう。



自衛官の定年は、自衛官を退職した後にも関わる重要な内容なんです!
コメント